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発声法入門1で、喉周辺に力を入れないで息をスムーズに流すには、横隔膜の上下運動によ
る腹式呼吸がよいと述べた。また、正しく吐けば正しく吸うことができるから、まず呼気から練 習するのがよいことも述べた。吸気はあまり意識しない方がよい。
もしまったく息を吸わないと次が歌い出しにくい気がするときは、胸には吸わず、前小節を歌い
終わってへこんだお腹を戻す(膨らます)ようにするとよい。
したがって、初心者は息を細く長く吐く練習を繰り返し、お腹を戻すときに息が入る感じをつか
むようにする。この練習で腹筋が強化されると同時に、歌唱時に横隔膜の上下運動が無意識 に出来るようになる。
実際には息は胸郭にも入っている(曲想の関係からとくに多く吸っておく必要があるときは、横
隔膜を強く下げるほか、胸郭を全体に広げるようにする。そのとき胸囲は大きくなっているだろ う)。ただ吸いすぎて肩が上下するような吸い方*は喉周辺に影響するからよくない。この呼吸 法では通常、意識してやるのは横隔膜を下げて息を吸うことであり、それが腹式呼吸と呼ばれ る理由である。
*往年の名テノール、マリオ・デル・モナコは肩を大きく上下させて歌った。これはドラマティッ
クな役が多かったデル・モナコの大げさな演技か、あるいはそれが癖になったものだろうと思っ ていたが、そうではないらしいと思い始めた。多分、おなかに息を入れた後さらに胸郭にも息を 入れているのだ。だが初心者はすぐにまねないほうがいいだろう。
声帯が振動するだけでは音楽的な音にはならず、適当な倍音を含んでいなければならないこ
とはすでに述べた。共鳴腔はたくさんあるが、どのような高さの声も同じ共鳴腔で響かせるの ではなく、高さにより、主に響かせるべき共鳴腔は異なっている。(異なる高さの音を同一の共 鳴腔で響かせることも限られた音域では可能だが、限界を超えると無理が生じる。)
よく言われる頭声、中声、胸声とは、主に響いている共鳴腔が比較的上部(頭部;ファルセッ
ト)、中部(鼻腔+口腔)、下部(口腔+胸部)であるような声のことだから、高音には頭声が多 く含まれ、低音には胸声が多く含まれるのは当然である。しかし通常は、どのような音程の音 もこれらの共鳴が適度に混ぜられている必要があり、それをミックスヴォイスといい、ほとんど の音域はミックスヴォイスで歌うのがよいだろう。 高音への飛躍が困難になる)。逆に高音になっても頭声だけにしてはいけない(キンキン声で、 特殊な効果を狙うのでなければ聞き苦しい。専門のソプラノ歌手でもこういう人は結構いる)。
比較的制御し易い共鳴腔は咽頭、口腔、鼻腔である。咽頭の形を大幅に変更するのは咽頭
蓋*、口腔と鼻腔の形を変更するのは軟口蓋**である。
*気管の入り口にあるふた。飲食物を飲み込むときごくりと閉まることにより飲食物は気管に
入らずに食道に落ち込む。
**口腔の上側後方、口蓋垂(のどちんこ)の前側の部分で意識的に上下させることが出来
る。
咽頭蓋を開くには、喉に力を入れないで、そっと息を送り出すようにするとよい。軟口蓋を上げ
るには、ストローで吸うように息を頭の方に向かって細く吸うとよい。手鏡で見えるから、鏡で見 ながら軟口蓋を上げる練習をすることが出来る。唇を微笑むように引き上げる('ほほ骨を上げ る'と表現する人もいる)のも一法である。 間を通って前上方に飛翔するようなイメージで歌うとよい(お面:mascheraマスケラ)。それに は、視線を斜め上方前方に向け、声が数メートル以上離れた的を貫いてはるか遠方に飛んで いくようにイメージする。共鳴が外れると、音が的を通らなくなるのでわかる。(よく響いた歌
は、声がよく飛ぶと表現されることがある。)ff だからといって決して押してはいけない。かえっ
て響かなくなり、声が飛ばなくなる。
母音をつないで共鳴の練習を! 日本語は5つの母音を持つが、外国語ではもっと多くの母音
を持つほうが多い(仏語では15ぐらい)。ここでは日本語を基本に、いろいろな母音の発声法 について述べる。
よくアーエーイーオーウーのような発声練習が行われるが、これは異なる母音を滑らかにつな
ぐ練習だから、そのことを意識してやるべきである。これがうまく出来れば発声法はかなり高い レベルに達しているといえる(アオエウイア の順の方が口腔の形がお互いに近いので アエイ オウ よりもつなぎ易いかもしれない)。
母音の発声法:最も自然に発声できている母音から他の母音に滑らかにつなぐことを試みる。
うまくつなげないのはどちらか、または双方の発声法が間違っているからである。今の場合、 出発点となっている母音はより正しい可能性が高いのだから、移行先の母音の発声がいけな い可能性が高いだろう。このようにして、すべての母音が相互に無理なく滑らかにつなげるよう にする。
最終的には、どのような母音順でも響きが滑らかにつながるように練習する。この練習は小さ
な声で、散歩しながらでも出来る練習だからせいぜい努力して欲しい。
言葉(歌詞)の利用(子音の利用も!):正しい発声に達するのに言葉が利用できる。喉周辺
(とくに舌根)に力がはいっていると言葉が正しく発音できないからである。どのような言葉もわ かりやすく聞こえるような発声をしなければならない。
サ行:舌先が自由でないと発音できない。
m,n:呼気の一部が鼻腔を通っていないと発音できない。鼻濁音(がぎぐげご)も同様である。
フランス語の鼻母音が利用できる。
Prrrr(リップトリル)やrrrr(タントリル)は舌や喉の力を抜くのに役立つ。
に変更して練習するとよい場合がある。たとえば「見上げてごらん夜の星を」の場合:
は次のように歌ってみる:
ローマ字書きの箇所は子音を強調する。mi は正確に唇を合わせて ミ ということ、chi sa shi は
はっきり チ サ シ と摩擦音を鳴らすことが大事である。またカッコ内はのどを開けるため便 宜的に母音を変更し、またはメロディーが低くなってきたところで息を十分流して、その余勢で 続く高音が歌えるように強調するとよい部分である。太字で示した音、げ、ん、がなどは鼻に抜 く(singのグのように)*。
*このごろは特に若者の間では、ガギグゲゴを(学校のガのように)鼻に抜かない歌い手が
多い。これを美しい と思うかどうかは趣味の問題でもあるが、頭声を響かすためには抜い たほうがよい。例をひとつ。結構上手に歌っていると思うが、ガギグゲゴは完全に鼻に抜かな い発音である。
このように練習して、ちゃんとのどの力が抜け、共鳴にはまって歌えるようになったら、母音を
変更したところは注意しながら本来の母音に戻す。
音域の広げ方(とくに高音域):歌手の音域には上限と下限がある。まず下限は各歌手のもつ
声帯の長さ、厚さ等によって決まっているから、いわば弦楽器の開放弦に相当し、それ以下の 低音は出せない。ただし、出てはいるけれども音量が小さいという場合は、共鳴を強化して音 量を上げることが出来ると思われる。研究して欲しい。
これに対して、上限は発声技術に依存するので、技術の改善によって相当広げることが出来
る(実際、低音歌手としてデビューしてから高音歌手に転向した例は多い。C.ベルゴンツイ* P.ドミンゴ等)。
*テノールに転向後のドミンゴ。母国語、スペイン語の歌がとても自然で美しい。
高音を歌うためにいちばん大事なことは、1)喉の力を抜くこと、2)共鳴をはずさないことであ
る。この二つが満たせるかぎり高音が歌える。そのどちらか、あるいは両方ができなくなると高 音が出なくなるのである。高音が次第に響かなくなり、こもるような感じになる人は、口をやや 横に広げるようにする(いわゆる頬を上げる)とよい場合がある。*
*頬の上げ方はルチアーノ・パヴァロッティの高音の歌い方(歌の終わり vincero のH の歌
い方)が参考になる。
*共鳴をはずさない声は次のジュゼッペ・ディ・ステファーノのような声のことだ.
音域を広げる具体的な練習法を2つだけ挙げると、1)1オクターブぐらいスタッカートで上昇し
て下降するような早いスケールを歌う、2)最高音のさらに半音ないし1音高い音を喉の形をま ったく変えないで、たとえば Doーdoーre do Doー (大文字はオクターブ低い音)などと歌ってみ る(そのためには喉に負担を加えない呼吸法が必要である。喉の形を変えないで息だけ送り 出す。お腹をそっとへこます*ようにするとうまくいくようだ)
メロディを歌って音域を広げる方法を紹介する。これは上江法明氏(バリトン)から教わった方
法で、多分氏が滞イタリア中に習wれたやり方と思われる。このメロディを基音を半音ずつ上 げながら繰り返す。ちなみに tu dormi は”君は眠る”の意味。 ![]()
*これはいけないことかもしれない。川村英司はお腹を引いてはいけない。むしろ横隔膜を座
布団のように保てと いっているので。
喉を開ける:解剖学的には咽頭蓋を開くこと。外見上は喉仏が下がった状態。(喉の)奥を開
けると表現することもある。
喉が上がる:初心者は音が高くなるにつれて、喉が次第に詰まってきて苦しくなり、ついには出
なくなる。そのとき起こっていることは、咽頭蓋が次第に閉鎖してきて、ついには閉じてしまい、 息が流せなくなっている。外から見ると、喉仏がだんだん上がってきているのがわかる。それを 「喉が上がる」と表現するのである。 疲れてうまく出来なくなってきて)喉で音を作ろうとして、喉に力が入るためである。解決策は、 暫時の休息と、その後、意識的に喉の力を抜き、息を横隔膜から送るようにするのがよい。
覆いをかける、かぶせる、曲げるなど:軟口蓋を高くして息が口腔の上半部を主に流れるよう
な歌い方。主に低音歌手によって高音を歌う際に用いられる歌い方。(独)decken、(伊)gira re.水野尚彦は、高音歌手の声区の転換にもジラーレが必要といっている。
声(息)の支え:喉に力がはいらないように息をスムーズに送ること。支えが不十分だと喉が閉
まってきたり、声が揺れたりする。息が肋骨の下辺後方に深く入っていると声がよく支えられ る。上述のこのサイトに詳しい解説がある。http://sky.geocities.jp/dsch_ino/hasseihou.html
ファルセットとメッザヴォーチェ:いずれも声帯の隙間から息を漏らしながら発声する方法だ
が、ファルセットとメッザヴォーチェでは声帯の開口の仕方が違っているらしい。ファルセットは クレッシェンドして実声につなげないが、メッザヴォーチェはクレッシェンドして実声につなぐこと が出来る。
いずれも声帯の隙間に息を流しながら声帯の振動を開始させるので、高音の場合、実声で歌
いだすよりも容易である。また、使い方によっては非常に美しい演奏効果があるので、とくにリ リック・テノールには必須の技術である。たとえばニコライ・ゲッダの真珠とりなど。
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